細胞の中ってどうなっているの?
吉森先生、こんにちは! 前回、私たちの体は日々「変わりまくり」と聞いてから、体調の変化に気をつけるようになりました。
すばらしいです。私たちの体は細胞からできていて、その細胞は日々入れ替わっているという話でしたね。ところで、ダッキー、細胞の中って一体どうなっていると思いますか?
確か、怪獣みたいな名前のものがいるんでしたよね。
よく覚えていますね! オルガネラのことですね。おもしろいことに、ひとつひとつの細胞の中には人間の「社会」と同じような仕組みがあるんですよ。
人間の社会? まさか、細胞の中に会社があったり人がいたりしませんよね。
いいポイントです! さっき、「怪獣みたい」とダッキーが言ったオルガネラ。これは人間社会でいう「工場」や「発電所」のようなものなんです。
ちょっとよくわかりません、先生……。
工場は物を作るところですよね。例えば、オルガネラのひとつ、ミトコンドリアでは、生命活動に必要なエネルギーをつくっています。「工場」や「発電所」と考えるとぴったりきます。そのほか、細胞の中にはリサイクル工場や配送センターなどもあります。
エネルギー工場にリサイクルまで! 人間の生活と同じですね。でも、工場には働く人が必要ですよね。
そのとおりです! 細胞の中ではタンパク質が「人間」にあたります。
タンパク質って、鶏肉や牛乳ですか?
そう思いますよね。実は、食事としてとったタンパク質は、そのままでは体内に吸収できないんです。体の中でアミノ酸に分解された後に吸収され、新しいタンパク質に作り変えられます。タンパク質は数万種類あって、人間社会と同じようにそれぞれがさまざまな仕事をしているんですよ。また、タンパク質は建物をつくる資材にもなります。
分業制なんですか! 細胞の中でタンパク質がせっせと働いている様子を想像すると、おもしろいです。では、工場で作ったものはどうなるんですか? まさか、荷物を運ぶ手段もあるんでしょうか?!
そのとおりです! 社会には交通網が必要です。人間社会に鉄道や船などの輸送手段と道路があるように、細胞の中にも高度に発達した交通網があるんですよ。
みんな、電車に乗って移動するんですか?!
細胞の中の交通網は「膜」です。細胞自体が「細胞膜」という膜で包まれていて、その中にあるオルガネラも油の膜で包まれています。この油の膜の中にタンパク質が入っています。膜の袋の中にまた膜の袋があると考えてください。
袋の中に袋……。かばんの中に小さいかばんやポーチが入っている感じですね!
細胞の中には工場(オルガネラ)や交通網があり、人間(タンパク質)がいて、人間社会と同じような営みを繰り返していると思うと、生命の神秘を感じませんか?
タンパク質は細胞の中の主役!
ところで、タンパク質は英語で何と言うか知っていますか?
確か、protein(プロテイン)ですよね。
そうです。もともと、ギリシャ語のproteios(プロティオス)から来ていて、その意味は「第一となるもの」、「一番重要なもの」です。言ってみれば、タンパク質は細胞の中の主役です。
主役! ということは、タンパク質には大切な役割があるんでしょうか。
そのとおりです。私たちの体の約15~20%はタンパク質でできています。私たちが普段当たり前のように行っていること、例えば体を動かしたり、泣いたり、笑ったり、ものを考えたりできるのは、タンパク質のおかげなんですよ。タンパク質は「生命活動の担い手」と呼ばれています。
タンパク質は確か生命の一番小さい階層にあるんでしたよね。そんな小さいものが、細胞の中での主役なんですか!
皆さん意外と知っているものが多いんですよ。先ほど、タンパク質にはそれぞれさまざまな仕事があると言いました。「抗体」は病原体から体を守る仕事、「酵素」は消化や分解を促す仕事をしています。タンパク質には体を構成する材料となるものもあります。例えば、コラーゲンです。コラーゲンといえば「美肌」ですが、肌だけでなく細胞、骨、臓器、組織など、体を構成するタンパク質なんです。ちなみに、クモの糸や絹もタンパク質でできているんですよ。
コラーゲンに酵素にクモの糸まで! そんなに身近なものだったんですね、タンパク質って。
そんな彼らが主に働いている場所が細胞の中なんです。
タンパク質が作られるのも活動するのも細胞の中なんですか! 私がこうやって話したり、ものを考えたりできるのも、タンパク質のおかげ。そして、そのタンパク質は細胞の中にある……。普段何気なく使っていたprotein(プロテイン)という言葉の重みを感じます。
今日のまとめ
細胞の中は人間社会そのもの。細胞の中の主役はタンパク質。
出典・参考資料:『LIFE SCIENCE(ライフサイエンス) 長生きせざるをえない時代の生命科学講義』吉森保著 日経BP