オートファジーに関する食品素材が注目を集める昨今、塗るのと飲むのはどちらが効率的なのでしょうか?前編に続き、「美容×オートファジー」をテーマに、花王 生物科学研究所の村瀬大樹さんとファンケル総合研究所の榎本有希子さんに対談していただきました。中編の今回は、“肌断食”とオートファジーの違いや、“ニュートリコスメティクス”についてお話を伺います。
“肌断食”に“ニュートリコスメティクス”、正しい理解と取り入れ方を!
いわゆる“肌断食”は、オートファジーと関係がありますか?
まず、オートファジーが飢餓状態で活性化するというのは、主に消化や吸収などを軸とする身体の中の組織で起こっている話です。これが皮膚に対して、化粧品の使用を中止して外から成分を補うことをやめることが、オートファジーを活性化するとは限らないと考えています。また、水だけで洗顔すると、汚れや酸化物が表皮上にたまっていくことで肌荒れを招く可能性もあります。いわゆる“肌断食”は肌が乾燥している人ではより状態が悪化するリスクもあるため、注意が必要です。
確かに、赤ちゃんの肌が成長とともに強くなっていくのと同じように、皮膚が特殊な環境にさらされて変化し強化されるという見方がない訳ではありません。一過的なストレスによって、オートファジーや酸化ストレス応答が増強するのは事実です。しかし、長期的になるとダメージがたまってリカバリが利かなくなり、皮膚障害などにつながる負の循環を招きます。
ただ、“肌断食”はオートファジーとは関連性が低いものの、人によってはメリットになる場合もあるでしょう。例えば、普段のメイクが厚い人や過剰なスキンケアを行っている人にとっては、皮膚に休暇を与えるという意味で良いかもしれません。
一方で、皮膚の角化機構にはオートファジーが関わり、乾燥した状態が続くとこれが乱れて正常な表皮が作り出せなくなるということも忘れないでください。皮膚状態を整える成分の補給を絶つということは、これらの仕組みを一過的であっても滞らせるということです。
そうですね。決して、“肌断食”を全否定するのではありません。大切なのは、細胞への栄養が途絶えた再生が利かない状態では、一方的に栄養を減らすのが危険だということです。
“ニュートリコスメティクス”や食品で、皮膚のオートファジーを活性化することは出来ますか?
いわゆる“ニュートリコスメティクス”(nutricosmetics)は、皮膚や毛髪などの美容を目的とする栄養素を含んだ健康補助食品の総称で、体内から働きかけて外面の美しさを目指すようなコンセプトがあります。ただし、その成分を飲んだときに皮膚へどのくらい到達し、どのように働くかを知るのは緻密な研究を要するでしょう。他にセラミドやコラーゲンといった既存の成分も、塗ったときと飲んだときで同じように働くとは限りません。
飲んだ成分が皮膚へダイレクトに働くというよりは、全身のコンディションが回復しやすくなることで、結果的として肌を含む各器官が良い方向に向かう期待が持てるという捉え方がよいかもしれません。
そういう意味では、塗ることに加えて飲むことの両方を日常生活の中へ適材適所に取り入れていくのが理想的でしょう。一方では、皮膚に対して影響を与える要因となる運動や睡眠、ストレスといった総合的な取り組みへの介入も大切です。
生活習慣はかなり影響を与えますね。また、最近の研究で心地よい程度の刺激を感覚神経に対して与えると、皮膚によい影響を及ぼしたという報告もあります。こうした神経系を含め、精神状態の乱れから肌荒れを起こすことも示唆されており、総合的な介入の大切さを感じている所です。
村瀬大樹 氏
花王株式会社 生物科学研究所 グループリーダー
名古屋大学農学部、同大学院生命農学研究科博士課程(前期)修了。2002年花王株式会社入社。2011年~2016年Kao USA Inc.(オハイオ州シンシナティ)に駐在。2017年より現職。2018年博士(農学)取得。「肌悩みに寄り添い、解決する」をスローガンに、皮膚科学研究に取り組んでいる。
榎本有希子 氏
株式会社ファンケル 総合研究所
ビューティーサイエンス研究センター 主幹研究員
北里大学薬学部、同大学院薬学研究科修士課程修了。1997年株式会社ファンケル入社。化粧品素材の有効性研究を経て、現在は皮膚の生理学研究に従事。2007年博士(薬学)取得。「お客様に喜んでいただくこと」をモットーに、日々研究を重ねている。