花王とFANCLの研究者が「美容×オートファジー」で語り合う!(前編)

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オートファジーは今、美容の分野でもこぞって多くの企業が研究開発を進めています。そこで、「美容×オートファジー」をテーマに、花王 生物科学研究所の村瀬大樹さんとファンケル総合研究所の榎本有希子さんに対談していただきました。前編の今回は、皮膚とオートファジーの関わりについてお話を伺います。

皮膚ならではのドラスティックなオートファジーに注目!

オートファジーは皮膚や美容に関する分野でどの位、注目されていますか?

村瀬さん

近年では、アトピー性皮膚炎や乾癬などの病気でオートファジーの活性が低下していることを報告する論文も出ており、皮膚の分野でも間違いなく注目を集めているといってよいでしょう。加えて、美容という視点でもきれいな肌やしなやかな毛髪を作り出すなど、より身近な分野での応用が期待されています。

榎本さん

実際、最近おこなわれた化粧品原料展では、オートファジーをテーマにした素材や成分に関する研究も幾つか発表されていました。そう遠くない未来に、研究によってきちんと裏付けされた製品が、一般の方の手元に届くようになるかもしれません。

村瀬さん

現在、美容を生命科学の一分野として広く関連づける先駆けの研究となったのが、長寿遺伝子として注目を集めているサーチュイン遺伝子に関する研究でしょう。サーチュイン遺伝子の活性化でオートファジーが活性化されることも知られています。この遺伝子は「若返り」という印象で一般にも知名度が高く、原料を開発する多くの企業が研究を重ねているところです。

榎本さん

私は大学を卒業し入社してから約25年間に渡り、化粧品の有効性評価や機能について研究し続けてきました。中でも敏感肌を起点とした研究をしていますが、このサーチュイン遺伝子やオートファジーをターゲットとしたテーマはとても有用と考えています。これらの遺伝子は、皮膚のターンオーバーと密接な関係があることも分かっています。
オートファジーは本当に皮膚でドラスティックな変化をもたらすのです。

美容とオートファジーの関わりについて、分かり易く教えてください。

榎本さん

一般的に皮膚では、奥にある細胞が分裂しながら上部へと移動し、その形はどんどん平たくなっていきます。そして、最終的には角層で垢となってはがれ落ちるという一連がターンオーバーです。オートファジーはその平たくなる過程など形が変化する部分で関与し、結果的に肌のバリア機能を維持するための細胞を正常に作り出すことに役立っています。
私たちの表皮(皮膚の最も外側)は不要になったものを排出することに加え、皮膚を守る機構も整えるという2つの機能が同時進行しているのです。

村瀬さん

オートファジーを理解するには、人間の社会と似ている性格を持っていると捉えてみるのも一つの方法でしょう。人間は歳を重ねても自分らしく健康的な生活を維持していくことを追求する一方で、生まれたばかりの赤ちゃんや成長していく子どもを活き活きと健やかに育てていくことも大切です。
オートファジーも既にある皮膚の老化を遅らせることと同時に、新しい細胞をいかに良い物へ育てていけるかという、循環の根源のように捉えてみるとよいかもしれません。

榎本さん

確かに。加えて、単に循環するのではなく、皮膚はリニューアルするというのがオートファジーのすごいところですね。

村瀬さん

オートファジーの働きを大きく2つ挙げましょう。1つはその細胞を健康に保って細胞そのものの健康寿命を延ばすというもの。もう1つは、細胞の中身をダイナミックに組み替えて変化を促すというものです。一つの細胞の変化が組織全体のターンオーバーを生みだし、新しく再編されると、組織レベルで常に新しい状態を保つことができます。
その好例が皮膚の「角化」です。細胞が分化するうちに元々持っていた核がなくなり、全く異なる細胞へと変化して新しい組織を形成する様は、皮膚のリニューアルそのものです。

ほかにも、オートファジーの捉える上での注意点などあれば教えてください。

榎本さん

オートファジーの面白いところは皮膚だけに限らず、どこか1か所が崩れると全体のオートファジーのバランスが崩れる可能性もあるということ。反対に、全体の調整が出来ていなければ、皮膚を始めとするあらゆる器官のオートファジーもきっとうまく回りません。

村瀬さん

そのような視点で考えると、オートファジーは東洋医学的な考え方も出来るかもしれません。例として漢方薬では実際に不調を訴える器官だけでなく、全身のバランスを見ながらアプローチの方法を決めます。オートファジーについても、細胞レベルを超えて組織レベルで全身的なアプローチが必要と考えることが出来るでしょう。
東洋医学において西洋医学で主軸となる検査やケミカルなアプローチとは異なるように、オートファジーもまた別の価値観や次元が見えてくるのかもしれません。

プロフィール

村瀬大樹 氏

花王株式会社 生物科学研究所 グループリーダー

名古屋大学農学部、同大学院生命農学研究科博士課程(前期)修了。2002年花王株式会社入社。2011年~2016年Kao USA Inc.(オハイオ州シンシナティ)に駐在。2017年より現職。2018年博士(農学)取得。「肌悩みに寄り添い、解決する」をスローガンに、皮膚科学研究に取り組んでいる。

プロフィール

榎本有希子 氏

株式会社ファンケル 総合研究所

ビューティーサイエンス研究センター 主幹研究員

北里大学薬学部、同大学院薬学研究科修士課程修了。1997年株式会社ファンケル入社。化粧品素材の有効性研究を経て、現在は皮膚の生理学研究に従事。2007年博士(薬学)取得。「お客様に喜んでいただくこと」をモットーに、日々研究を重ねている。

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