細胞の学校 – Lesson 8 –

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ゲノムは遺伝に関する全ての情報

ダッキー

吉森先生、こんにちは。前回のDNAと遺伝子の話、あれからしばらく興奮がおさまりませんでした。

吉森先生

ふふふ、そうでしたか。DNAという4種類の文字から作られた遺伝子を設計図として、人間の体が作られ、リフォームされ、維持されていると考えると、生命の神秘を感じますよね。

ダッキー

ところで、「ゲノム」とは何でしょうか。先生のお話でDNAと遺伝子は何となくイメージできるようになったんですが、ゲノムとはまた全然違うものですか?

吉森先生

よいところをついてきましたね、ダッキー! ゲノムも最近よく聞く言葉だと思います。ゲノムは、細胞の中にあるDNA全ての並び順を含む「全情報」です。つまり、生き物の体をつくるために必要な全ての遺伝情報です。

ダッキー

全ての遺伝情報! なるほど、その情報が親から子に受け継がれるんですね。

吉森先生

そうです。人には人の、アヒルにはアヒルのゲノムがあります。

ダッキー

じゃあ、吉森先生がいくらがんばっても、残念ながら私のようにアヒルになることはありませんね! でも、どうして「ゲノム」と呼ばれているんですか?

吉森先生

ゲノムは英語でgenomeと書き、「gene(遺伝子)」と「chromosome(染色体)」を組み合わせた言葉です。ちなみに人間の遺伝子は2万数千個で、これがわかったのは2000年代の初め、なんとたったの20年前なんですよ。

ダッキー

そんなに最近なんですか!

吉森先生

そうなんです。また、全ての文章(遺伝子)の意味は、今でもよくわかっていないんです。人間の体については、まだまだわからないことがたくさんあります。それだけ未知の世界が広がっていて、可能性があるというわけです。

遺伝情報の写し間違いと進化

吉森先生

ちなみに、この遺伝子の設計図には書き間違い、写し間違いが割と起こっているんですよ。

ダッキー

ええ、どういうことですか?

吉森先生

約60兆個ある人間の細胞は、ひとつの細胞がふたつに分裂して数が増え、またその細胞がふたつに分裂する過程を繰り返すことで、日々生まれ変わっています。この細胞分裂のときに遺伝子の情報を書き写すのですが、写し間違いが起こってしまうことがときどきあります。このコピーミスを遺伝子の「変異」と言います。また、放射線や特定の化学物質の影響などでも誤った文字になってしまうことがあります。

ダッキー

写し間違いって、まるで授業中の私のノートみたいじゃないですか! 写し間違えると、どうなるんですか?

吉森先生

通常、コピーのミスにはDNAの修復機能が働きます。また、このミスでできてしまった異常な細胞には免疫が働いて排除してくれますから、ほとんど問題ありません。ところが、修復されない遺伝子や排除されない細胞がたまたま生き残ってしまうこともあります。そのとき、写し間違えがたった1文字であっても、その場所が悪いと問題になります。その情報をもとにタンパク質が作られるわけですから。

ダッキー

その結果、どうなるんですか?

吉森先生

病気になる、何も起こらない、進化する。このうちのいずれかです。

ダッキー

まるで、ロシアンルーレットじゃないですか!

吉森先生

こればかりは、どれになるかわかりません。ただ、写し間違い(変異)は決して悪いことばかりではないんですよ。変異により進化することもあるんですから。さまざまに変化し組み替えられた遺伝子は、親から子へ受け継がれてきています。このとき、親とは違った遺伝子を持った子の方が環境により適応しやすかった場合、その遺伝子を持った子孫が生き残っていきます。このようにして、生物は地球環境の変化に適応する形で進化を続けながら命をつないできました。そのプロセスは、たった4種類のアルファベットで書かれた文章で、生命の誕生以来このシステムはずっと変わっていません。

ダッキー

そう考えると、自分の親だけでなく、遠い先祖にまで思いを馳せてしまいます。みんなつながっているんですね。

今日のまとめ

ゲノムは遺伝に関する全ての情報。遺伝情報の写し間違いは、生物の進化とも関係している。

出典・参考資料:『LIFE SCIENCE(ライフサイエンス) 長生きせざるをえない時代の生命科学講義』吉森保著 日経BP

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