寿命は延ばすことができる?
吉森先生、こんにちは! 前回、老化は止められるのかという話になりましたよね。老化を抑えて寿命を延ばすには、細胞の存在が大切になってくるというのはどういうことですか?
よく覚えていましたね、ダッキー。科学の力で病気を予防する研究や老化を止めようとする動きがあるとお話ししました。そのおかげで、寿命を延ばす方法についても少しずつわかってきています。
どんな方法でしょうか? ぜひ知りたいです! これからも健康で長生きしたいので。
主に5つあります。まずは、摂取カロリーを制限すること。ハエ、マウス、サルなどを使った実験で、摂取カロリーを抑えると寿命が延びることが確認されています。と言っても、私たちは何も食べないわけにはいきません。例えば、朝、昼、晩に摂取するカロリーを少し減らしたり、食事を1回分抜いたりすることで、寿命を延ばす効果があるといわれています。人間では具体的にどういう方法が一番よいのかという結論はまだこれからなんですが。
プチ断食のような方法ですね。1食抜くぐらいなら、私もすぐにできそうです。
ただし、栄養失調になってはいけませんから、気をつけてくださいね。次は、インスリンがあまり働かないようにすることです。
インスリン……よく聞く言葉ですね。でも、具体的にどういうものかわかりません。
インスリンは、すい臓から分泌されるホルモンです。私たちの体は、インスリンのおかげで血糖値が一定に保たれているんですよ。例えば、食後には血糖値が上がります。この上がった血糖値を下げる働きをしてくれるのがインスリンです。動物実験では、インスリンをあまり働かせないようにすると寿命が延びることがわかっています。
あえてあまり働かせないんですね!
そうです。3つめは、ラパマイシン標的タンパク質(TOR)というタンパク質が関係しています。ちょっと難しい言葉ですね。TORは、細胞の中で代謝や増殖を調整し、タンパク質の合成を促進する役割を担っています。TORのこういった働きを少し抑えてやると、寿命の延長によいといわれています。
難しい名前が出てきましたね。インスリンもTORも抑え気味にするとよいということですね。
そういうことです。4つめは、生殖細胞を取り除いてしまうことです。
ええ! 子どもをつくらないということですか?!
それは違います。子どもを産まないと長生きするわけではありません。生殖細胞という細胞自体を除去するんです。動物実験では証明されていますが、人間を使っての証明はできませんよね。いずれにしても、生殖は寿命と大いに関係していると思います。
だんだんスケールの大きい話になってきましたね。
最後は、ミトコンドリアです。
懐かしいです! 最初の頃に勉強しましたね!
そうです! ミトコンドリアは細胞のエネルギー工場でしたね。そのミトコンドリアの働きを少し抑えてやると、長生きするという報告があります。
5つとも、制限する、抑えるという言葉が共通していますね。
おもしろいですよね。これら全ては人間が生きていくうえで必要な機能ですが、少し抑えてやるとよいようです。
省エネ、働きすぎないということでしょうか?
そうですね。また、5つの方法に相互関係はないというのも興味深いことです。
まとめ
さて、ダッキー。実はこの「細胞の学校」シリーズ、今回で最後なんですよ。
ええ、そうなんですか! 12回、あっという間でした。吉森先生のおかげで、とっても楽しい時間を過ごせました。
私もです。私たちの体は細胞からできているという話から始まって、ダッキーは細胞についてとても詳しくなりましたね。
はい! 細胞が日々入れ替わっていること、細胞の中がまるで人間社会のようだという話、元気でいられるのは細胞のおかげでしたね! ミトコンドリアやオルガネラという難しい名前も覚えました。プロテインの語源も説明できます!
すばらしいです、ダッキー! これからは細胞のことならダッキーに聞けばいいですね。
まかせてください! それから、遺伝子の変化で病気が遺伝することがあること、ウイルスと鍵穴の話、免疫と侵入者……。細胞って本当におもしろい世界ですね。
ダッキーにそう言ってもらえると私も嬉しく思います。ダッキーと一緒に「細胞の学校」に入学してくださった皆さんが細胞について少しでも興味を持ってくださったら、これ以上に嬉しいことはありません。
本当ですね! 細胞の中には宇宙が広がっています! 吉森先生、ありがとうございました!
こちらこそ! 皆さんとまたお会いできるのを楽しみにしています。
今日のまとめ
寿命は延ばせる!
出典・参考資料:『LIFE SCIENCE(ライフサイエンス) 長生きせざるをえない時代の生命科学講義』吉森保著 日経BP