村瀬大樹 氏(中編)|シミやメラニンの概念が一転!研究者が語るオートファジーと肌との関係

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花王 生物科学研究所の村瀬大樹さんを前編に続いてご紹介します。今回は、オートファジーと出逢ったきっかけからシミに関する製品への展開、肌の老化現象とオートファジーの関係、自分でオートファジー活性の度合いを知る方法についてお聞きします。

オートファジーと出会ったのはどのようなきっかけでしたか?

私は考えが煮詰まったときに、会社の図書室で雑誌を読むのが好きでした。あるときそこで手に取ったのが、『実験医学』(羊土社刊)という研究書籍で、吉森 保先生(大阪大学 生命機能研究科 教授)のオートファジーに関する記事に心を奪われたのが最初のきっかけです。直ぐに吉森先生の研究室を訪問し、共同研究に繋がるご縁もありました。

当時の私は、オートファジーのことを殆ど知りませんでした。何でも壊すことの出来るオートファジーという存在に、研究者としてだけではなく、一生活者としても衝撃を受けたのを今でも鮮明に覚えています。

私の専門とする皮膚は、川の流れの如く作っては壊す「新陳代謝」で絶えず入れ替わっています。これを皮膚の細胞の中でオートファジーが行っているということに、大きな意味を感じました。同時に、「『動的平衡』こそが、生命体が生きている状態だ」という生物学者の福岡伸一氏の言葉が頭に浮かび、「これだ!」って思ったのです。

私にとってオートファジーとの出会いは、皮膚と体内で起こっている現象が一本の線でつながった瞬間でした。そのときから、メラニンやシミなどに対する目線もガラリと変わりました。

オートファジーは、シミやメラニンに対してどのような影響を与えるのでしょうか?

シミのある部分とない部分でオートファジーの活性を比べた研究で、前者の方が活性の低いことが分かっています。ただし、活性が低いからシミが出来るのか、反対にシミがあるから活性が低いのかということはまだ分かっていません。

確かなのは、シミとオートファジーの活性には相関があって肌の色にも影響を与えているということです。実際に、オートファジーの働きをなくした細胞にメラニンを取り込ませて観察すると、メラニンが代謝されずに蓄積し続けることも分かっています。

オートファジーを応用した化粧品の開発について教えてください。

ここ5年位で少しずつ、製品開発にオートファジーの研究成果を応用することが出来るようになってきました。始めに実験の観察対象について、これまで細胞どうしでおこなっていたものを皮膚科医やオートファジー研究の専門家とともにヒトの肌へと移行し、同様にシミのある部分でオートファジーの活性が低いことを確認します。

そして再度、観察対象を細胞に戻してその活性を高めるような成分を探していきました。そこからは開発担当者や事業担当のメンバーも加わり、あらゆる方面から製品としての価値を高めていってようやく1つの製品が出来上がりました。

シミのほかにも、肌の老化とオートファジーは関係があるのでしょうか。

オートファジーの活性は加齢により低下することが研究で分かっています。これには色々な年齢で紫外線の影響を受けにくい腕の内側の皮膚を一部採り、それぞれの活性がどの程度かを調べました。ただ、十分なデータと言える程の性別や実態などを合わせた解析ができている訳ではなく、確信をもって提供するにはさらに研究を重ねる必要があります。

老化現象は人それぞれで、さらに個々の中でも場所によってさまざまです。そのようなシワやたるみ、何となく感じる質感とオートファジーとの関係を解明するのは壮大なテーマと言えるでしょう。

なかでも、特に大切な質感の解明は難しいと思います。この質感が人工的な肌モデルや模型で人が見て明らかに違いが分かるのは、肌の下の血液など多くのものが複雑に絡み合って表現されているからです。

自分の肌のオートファジー活性が高いかどうか、知ることはできるのでしょうか。

これは難しい質問で、研究者たちの間でもそうした指標の登場を期待しているものの、まだ確固たるものがありません。もし、1つ目安になるものを挙げるとすれば、肌の潤いを参考にしてみてください。潤いがなくなって乾燥した肌ではバリア機能が弱まっているだけでなく、オートファジーの活性も低いという研究報告があります。

また、アトピー性皮膚炎の場合でもその活性は弱くなることが報告されていて、オートファジーの応用は治療薬としても試案されている分野です。今後、健康な肌と病気を持つ肌のどちらにも、オートファジーを活用した製品が登場していくことでしょう。

プロフィール

村瀬大樹 氏

花王株式会社 生物科学研究所 グループリーダー

名古屋大学農学部、同大学院生命農学研究科 博士課程(前期)修了。2002年花王株式会社入社。2011年~2016年Kao USA Inc.(オハイオ州シンシナティ)に駐在。2017年より現職。2018年博士(農学)取得。「肌悩みに寄り添い、解決する」をスローガンに、皮膚科学研究に取り組んでいる。

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