細胞も酸欠になる?
吉森先生、こんにちは! ふー!
どうしたんですか、ダッキー? 汗だくですね。ふうふう言っていますよ。
筋トレをしていたら、酸欠になってしまったようです。
おやおや、それはいけませんね。酸素の供給が追いついていないんでしょう。ゆっくり深呼吸してみましょうか。
はい。(深呼吸をするダッキー) ふう、だいぶん楽になりました。
それはよかった! ところで、「酸欠」といえば、日本人の死亡原因で3番目に多いものは何だったか覚えていますか。
確か、最も多い原因はがんでしたよね。その次は心臓の病気だったと思います。
そのとおりです! よく覚えていましたね。
3番目というと、脳の血管の病気でしょうか。
素晴らしいです、ダッキー! 2022年のデータでは、日本人の主な死亡原因のうち、がん、心疾患に次いで多いのが脳血管疾患(6.8%)※です。
※老衰を除く。
がんと比べると低いようですが、それでも高いんですね。でも、酸欠が脳血管疾患とどう関係があるんですか?
実は、脳梗塞も細胞が酸欠を起こしているために起こるんですよ。
細胞が酸欠? まさか、さっきの私みたいな状態になっているわけではありませんよね?! どういうことでしょうか。
確かにびっくりしますよね。詳しくみていきましょう。
脳梗塞は脳細胞の酸欠が原因
まず、脳梗塞がどんな病気か知っていますか?
脳梗塞と脳卒中は全く別の病気ですか? いずれも大変な病気だという印象があります。
そうですね。脳卒中は、急性の脳血管疾患のことです。脳卒中には大きく分けて脳梗塞と脳出血があります。このうち、脳梗塞は「梗塞」という漢字にもあるように、脳に酸素が届かなくなり、脳細胞の一部が死んでしまう病気です。一方、脳出血は脳の血管が破れて出血した状態で、脳の中で起こる脳内出血のほかにくも膜下出血といって脳の表面を覆っている「くも膜」の下に出血がみられる病気もあります。
なるほど。酸素がうまく供給されないものと出血するものがあるんですね。
そうです。では、脳梗塞と酸素供給の関係についてみていきましょう。血管は血液を運ぶ道路のようなものです。その道路を通って、赤血球が体のあちこちに酸素を運んでいます。脳に酸素がうまくいきわたらなくなる理由は、血管が詰まるためです。
血管が詰まるというと、「動脈硬化」が関係していますか? 最近行った病院で見かけたポスターに書いてあったのを思い出しました。確か、食事も動脈硬化と関係しているんですよね。
その通りです、ダッキー。食事のほかには加齢、肥満、高血圧、喫煙なども動脈硬化と関係していると言われています。細胞が正常に働くためには、酸素が必要です。でも、酸素や栄養を運ぶ動脈という血管にプラークがたまって血栓ができると、血管が狭くなったり詰まったりしてしまいます。これを動脈硬化といいます。動脈が硬く厚くなった状態です。
血管が詰まるなんて、こわいですね。
そうなんです。動脈硬化の状態が続くと、酸素がうまく脳に届かなくなって脳の細胞が死んでしまい、脳梗塞になってしまうことがあります。
脳に酸素が届かないせいで、脳細胞が死んでしまうんですか。つまり、脳細胞が酸欠になるということでしょうか?!
その通り。脳梗塞という病気は、脳細胞自身には問題はありません。でも、酸素が届かないことで細胞が酸欠になり死んでしまうと、脳の機能に問題が起こってしまうんです。また、動脈硬化は、脳梗塞だけでなく、狭心症、心筋梗塞なども引き起こします。脳出血も動脈硬化が原因のことがあります。
Lesson4で、アルツハイマー病は細胞そのものが死んでしまう病気だと学びました。でも、脳梗塞のように、細胞そのものには問題はなくても、酸素の供給がうまくいかずに細胞が死んでしまうことがあるんですね。
そのとおりです。このように、血管の状態や酸素供給のような外部環境も細胞に大きな影響を与えていることがわかりますね。
今日のまとめ
細胞も酸欠になる。脳梗塞は脳細胞の酸欠が原因。
出典・参考資料:『LIFE SCIENCE(ライフサイエンス) 長生きせざるをえない時代の生命科学講義』吉森保著 日経BP