皮膚のオートファジー活性を簡単に測る手段は、多くの人がその登場を待ち望んでいます。中編に続き、「美容×オートファジー」をテーマに、花王 生物科学研究所の村瀬大樹さんとファンケル総合研究所の榎本有希子さんに対談していただきました。後編の今回は、オートファジーを活用した化粧品とその活性を測定する方法についてお話を伺います。
現状は「見た目」が身近な評価指標、化粧品への活用は?
オートファジーの活用は、具体的にどのような美容につながりますか?
例えば、シミについてはメラニンが入ったメラノソームという細胞小器官がオートファジーによって分解されることから、その働きを理解しやすいでしょう。一方で、しわについてはコラーゲンやエラスチンなどの線維構造が関わり、細胞ひとつではなく非常に大きな組織のレベルで起こっているため、簡単に立証することが出来ません。今後、実質的な代謝を含めた機能の解明が課題となっていくことでしょう。
とくに、しわの場合はオートファジーによる再編とリニューアルだけでなく、細胞そのものの糖化や異常化なども関わってきます。加えて、皮膚特有の線維芽細胞や免疫細胞などの影響もあり、学会では相次いでそれらに関する報告も。皮膚の環境はこうした種々の細胞が互いに関係し合いながら全体が変化していき、それがシミやしわなどの外観となって現れてくるのです。
シミやしわなどそれぞれの既成概念に縛られることなく、オートファジーを通じて様々な細胞を横断しながら研究を進めることで、あらゆる方向から美容を握る鍵が見つかるかもしれません。オートファジーの働きで注目するなら、きれいに作りだすという部分に視点を置くのがポジティブな研究につながると思っています。
皮膚でのオートファジーの活性を測る方法はありますか?
残念ながら、生きている人のリアルなオートファジー活性を測る術はまだありません。現状では、「見た目」が一つの切り口になるかも知れません。最近ではZ世代を始め、男性用化粧品もすごく流行しています。女性では日々の“化粧ノリ”や、男性では朝起きたときの頬の乾燥感なんかも気にしてみてはいかがでしょうか。
オートファジーの活性が高まることで、何か残っていくものがあれば測れるかもしれません。採血や皮膚細胞の採取など侵襲的な検査を行わずに、なくなってしまうものを測定することは現状では困難です。そして「見た目」については近年、感性工学の分野でも研究が進められています。
あと、顔色が悪いようなときにはその下の血流も変化している可能性が否定できません。実際に、「見た目」というのは加齢に伴う病気の罹患率に関係しているという研究報告もあります。
もし、皮膚のオートファジー活性を簡単に測れる方法があるとすれば、個人的にはスマートウォッチのようなものが欲しいですね。その活性がどのようなタイミングで上下したかに加え、むくみの度合や水分量、汗や皮脂の分析なども見ることが出来れば便利だと思いませんか。さらには近年、話題の酸化ストレスについても皮膚を通して察知することが出来れば、その日のパフォーマンスを何%にしようかという風な備えが可能かもしれません。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
皮膚は紫外線の照射や乾燥、花粉、ストレスなど多くの要因によって揺らぎ続けています。かといって、揺らいでいる状態が病気という訳ではありません。注意したいのは、揺らいでいる状態ではオートファジーが正常に働きにくい可能性があるということ。
まだ数は多くありませんが、少しずつ美容とオートファジーの関連性について解明が進められています。日頃から肌のバリア機能を正常に維持し、オートファジーが正しく機能するように取り組んでみてはいかがでしょうか。
オートファジーは1つの細胞内の出来事と捉える人もいるかもしれませんが、皮膚という組織は多様で身体のあらゆる不調をサインとして発揮する器官でもあります。ドラスティックに変わる皮膚ならではのオートファジーはその意外性や拡がりについて、まだ研究も始まったばかりです。
たった一人の研究者では想像がつかないような発想も、複数の専門家がうまく交わり合うことで新しいアクションを引き起こすことにつながると信じています。近い将来、オートファジーを活用した化粧品やその測定機器が世の中に送り出せるかもしれません。楽しみにしていてください。
村瀬大樹 氏
花王株式会社 生物科学研究所 グループリーダー
名古屋大学農学部、同大学院生命農学研究科博士課程(前期)修了。2002年花王株式会社入社。2011年~2016年Kao USA Inc.(オハイオ州シンシナティ)に駐在。2017年より現職。2018年博士(農学)取得。「肌悩みに寄り添い、解決する」をスローガンに、皮膚科学研究に取り組んでいる。
榎本有希子 氏
株式会社ファンケル 総合研究所
ビューティーサイエンス研究センター 主幹研究員
北里大学薬学部、同大学院薬学研究科修士課程修了。1997年株式会社ファンケル入社。化粧品素材の有効性研究を経て、現在は皮膚の生理学研究に従事。2007年博士(薬学)取得。「お客様に喜んでいただくこと」をモットーに、日々研究を重ねている。