神吉智丈先生(前編)|産婦人科医だった私が、ミトコンドリアに魅せられてオートファジー研究へ

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第1回目となる「オートファジーな人々」では、新潟大学大学院医歯学総合研究科 教授の神吉(かんき)智丈先生をご紹介します。神吉先生はオートファジーの中でも、ミトコンドリアをオートファジーで分解する「マイトファジー」を研究されています。前半の今回は、オートファジー研究との出逢いやマイトファジーの現象を発見するまでの道のりについてお話を伺います。

神吉先生は元々、産婦人科の医師としてご活躍されていたと聞きました。そこから、どのような経緯でオートファジー研究へと進まれたのですか?

確かに、大学を卒業したあと3年間は九州大学医学部附属病院とその関連病院で産婦人科医として勤務していました。ただ、僕はもともと研究志向がつよく、特定の領域にかぎらず幅広い分野の治療にも関わるような研究がしたいと思い、九州大学大学院医学研究科へ進学しました。そこで指導していただいた先生がミトコンドリアを専門に研究されていたので、自然と自分もその道に。大学院修了後も九州大学で1~2年ほど研究したあとコロンビア大学への留学を経て、オートファジーの研究を専門とするミシガン大学のDaniel J. Klionsky教授の研究室に移りました。

ミシガン大学に移ってから、オートファジーに関してどのようなテーマで研究されていたのか教えてください。

じつは日本にいるときからずっと、研究しつづけても分からなかったことがあります。それは、ミトコンドリアの中にあるDNAを壊す仕組みです。ミトコンドリアの中にあるDNAは非常に重要な役割を担っているのですが、絶えず複製され新しいものが作られています。作った分だけ壊す仕組みもあるはずなのに、分からなくて悩んでいました。それまでは、ミトコンドリアの内部にDNAを壊す仕組みがあると思って研究をしていました。でも、オートファジーという概念が出てきて、DNAを含むミトコンドリアを丸ごと分解してしまうのではないかと思ったのです。

ミシガン大学のDaniel J. Klionsky教授は、オートファジーに関する研究でノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典教授と同じく、酵母をつかって研究をしていました。私はそこで工夫を重ねた結果、オートファジーがミトコンドリアを分解する現象、さらに分解されるミトコンドリアにはちゃんとDNAが含まれていることを捉えることに成功したのです。

酵母でミトコンドリアのDNAがオートファジーで分解されるという発見に対して、周囲の反応はどのようなものでしたか?

私は非常に面白いことが見つかったと思っていましたが、じつは、その成果が示す価値について、周囲の反応はあまり大きくありませんでした。当時はまだ、ミトコンドリアをオートファジーが分解するということについてすら研究する人は少なかったのです。ただ、これは私にとってすごくラッキーでした。何せ、小さなことでも見つければすべてが新発見だったのですから。

次に、このマイトファジーの分子機構や生理的意義を追求する必要性も自ずと出てきます。より詳しい仕組みや流れを調べるために、関連遺伝子を探す研究へとつながっていきました。そこで見つけたのが、ミトコンドリアに存在する「Atg32」というタンパク質です。

ミシガン大学で過ごした2年間での、研究成果について教えてください。

私は2年間で3つの論文を発表しました。1つ目は、マイトファジーという現象を酵母で実験することができるという論文です。2つ目は、マイトファジーに欠かすことのできないタンパク質「Atg32」の発見について。そして3つ目は、酵母が持つ6000個もの遺伝子を一つずつ調べて、マイトファジーの機能に関係するもののリストを作った論文です。

こうした研究成果を持って、マイトファジーの現象が確固たる仕組みをもとに起こっているということが証明できたのです。酵母や哺乳類を含めた全生物を通じて最初の研究であり、やっとマイトファジーの解明が進み始めたのです。それまでは、ミトコンドリアの近くでオートファジーが起こっていれば、これにミトコンドリアも伴って分解されるのだろうという予測の範囲でした。

研究の成果は、病気の治療などにどのように役立つと考えられますか?

ミトコンドリアは脳や筋肉、心臓など身体の隅々に存在し、私たちが活動するためのエネルギー(ATP)を生み出すという重要な役割を担っています。たとえば、マラソンで長い時間筋肉が動き続けられるのは、ミトコンドリアが働いているからです。

通常、ヒトの一つの細胞の中にはミトコンドリアのDNAが約1000個あると言われています。ミトコンドリアDNAに関連した病気では、この1000個の中で、正しい働きをするDNAとおかしくなったDNAとが入り混じり、徐々に細胞が機能しにくくなって、神経変性疾患や筋力の低下、痙攣や糖尿病、発達障害、腎機能障害などさまざまな症状が出ることがあります。

これらは総称して「ミトコンドリア病」と呼ばれ、難病に指定されており、現在の医療では治す方法が見つかっていません。したがって、マイトファジーをうまく起こすことが叶えば、おかしくなったDNAをミトコンドリアごと分解することによってこの難病の悪化を遅らせることや治療の手段が見つかるかもしれないと考えています。

クラウドファンディングのお知らせ

「ミトコンドリア病の克服を目指して、マイトファジーの研究を進めたい!」
https://readyfor.jp/projects/mitophagy

オートファジーのミトコンドリアを分解する機能を利用して、ミトコンドリア病の治療を目指し、500万円を目標金額としてクラウドファンディング(2月16日~)に挑戦します。本研究は、老化の遅延や高齢者の不妊治療にも応用が期待できます。ご寄付・応援の程よろしくお願いいたします。

期間:2023年2月16日(木)~4月14日(金)

プロフィール

神吉(かんき)智丈先生

新潟大学大学院 医歯学総合研究科 機能制御学分野 教授

九州大学医学部卒業(平成9年)。産婦人科で研修後に大学院進学。平成15年学位取得(医学博士、九州大学臨床検査医学分野)。コロンビア大学、ミシガン大学でのポスドクを経て、平成21年に九州大学病院助教(検査部)。平成23年より現職。
細胞生物学、分子生物学、生化学領域の研究。ミトコンドリアの研究から発展し、現在は主にミトコンドリアオートファジー(マイトファジー)の研究を行っている。

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