皮膚はターンオーバーの速度や水分量あるいは脂質量のほか、様々な分子によっても状態が変わってきます。ここに、オートファジーはどのように関わっているのでしょうか。近畿大学 薬学総合研究所 先端バイオ医薬研究室 森山麻里子先生、森山博由先生の監修で解説します。
異常なターンオーバーは、“薄っぺらい肌”のリスクに
皮膚では様々な幹細胞の宝庫で、幹細胞から常に皮膚のさまざまな細胞が連なって作られていき、古い細胞がからだの外に押し出されていくターンオーバーが起こっています。その構造は大きく分けると、いちばん外側の表皮とその下の真皮(しんぴ)、さらに下にある皮下組織の3層で成り立っています。
外からの刺激やウイルスなどの感染から身体を守り、バリア機能を維持する表皮のターンオーバーやオートファジーとの関わりについて見ていきましょう。
表皮の作られる仕組み
体の最も表面側にある表皮組織は、4つの層で構成されています。皮膚の表面から内側の順に角質層、顆粒層、有棘層(ゆうきょくそう)、基底層(きていそう)が並んでいます。
最も下層にある基底層で分裂したケラチノサイト(角化細胞)がケラチンという線維状のたんぱく質を産み出しながら表面へどんどん押し上げられ、次の層へ分化していく過程を切れ間なく続けながら、いちばん上層の角質層を形成します。
この、分化しながら押し上げられた各々の層が機能をもった状態になることを成熟と呼びます。とりわけ、他の層と異なり角質層では核やミトコンドリアなどの小細胞器官※は見られないのが特徴的です。実は、この角質層へ成熟する過程のどこかでオートファジーが起こっているのではないかと、以前からささやかれていたのです。
※小細胞器官:細胞の中で一定の機能を担っている構造体の総称でミトコンドリアや小胞体、ゴルジ体、リソソームなどが含まれる。
ターンオーバーが正しく機能しないと
成熟した角質層の細胞がいつまでもそこにいる訳ではありません。およそ40~50日間の周期で、垢となってはがれ落ちます。
しかし、各々の組織が成熟する過程で本来よりも速すぎる異常な分化や、過度なアポトーシスによって表皮のバリア機能が壊される現象が起こると、細胞は未成熟なまま角質層へと達することとなります。実際、皮膚組織のターンオーバーの過程である遺伝子が正常に働かないと有棘層への分化は正常におこなわれない状態になり、皮膚が薄く脆弱な(不健全な)状態となる研究成果も報告されています。
表皮で働くオートファジー
いま、研究で分かっている表皮での具体的なオートファジーの働きは次の2つです。
1つ目は、顆粒層よりも上の層でBNIP3(ビーニップスリー)というオートファジー誘導能をもつ因子が、角化細胞の分化を促進するということ。これにより、オートファジーの機能が表皮を維持するために必要であることが分かりました。
2つ目は、紫外線(UVB)の照射でミトコンドリアが傷つくとBNIP3が増えてそれを分解し、過度なアポトーシスを抑えるということ。これは、BNIP3がミトコンドリアにおけるオートファジー(これをマイトファジーという)を誘導した結果ひき起こされるもので、表皮における恒常性の維持に寄与することが分かりました。
つまり、BNIP3はオートファジーを誘導することによって皮膚のターンオーバーを助けたり、過度なアポトーシスが招くバリア機能の低下を防いだりする働きがあるということです。
※BNIP3:BCL2およびアデノウィルスE1B19kDa相互作用タンパク質3