特集
美容×オートファジー
美容と、皮膚が本来もつ恒常性を正常に維持していくこととは切っても切れない関係にあります。オートファジーは、皮膚のバリア機能を保つために必要な、発生や分化のメカニズムに関与していることが少しずつ明らかになってきました。美容とオートファジーの関係について、近畿大学 薬学総合研究所 先端バイオ医薬研究室 森山麻里子先生、森山博由先生の監修で解説します。
美容に関わる企業が注目するオートファジーのコンセプト
皮膚とオートファジーの関係について注目されるようになったのはごく最近のことです。
今では、これまで分かっていなかった表皮(肌のいちばん外側の層)の厚さを適切に保つ仕組みや、その恒常性の維持とオートファジーの関係が少しずつ解明され始めたことで、美容に関連する企業が相次いで共同研究に乗り出しています。
オートファジーと聞くと、人によっては飢餓や断食といった単語を連想し、肌に対して化粧水や乳液などのスキンケアを断つ、いわゆる“肌断食”を思い浮かべる人もいるかもしれません。
しかし、これはまた別の話で、企業はどのようにオートファジーに対して影響を与えれば、皮膚を美しく健やかに保てるかという視点で製品開発に取り組んでいます。今、その主なターゲットとなっているのが、「シミ」と「肌の白さ」です。
これらの研究が基となって製品化されれば、顔や頭皮など目的とする部分でオートファジーを意図的に活性化し、シミやハリ・ツヤ不足、薄毛といった様々な美容課題に貢献することの出来る基礎化粧品が世の中に送り出されていくことでしょう。
このうちシミは、ケラチノサイトにメラニンが溜まることで発生するという仕組みが、一般にも広く知られています。
近年の研究で、BNIP3(ビーニップスリー)というオートファジー誘導因子がこのケラチノサイトの分化誘導に関わることや、紫外線にあたったときに発生する活性酸素によってBNIP3の発現が増えて、表皮を過度なアポトーシス※から保護するというところまで分かってきました。
ただし、溜まったメラニンをオートファジーで分解することが出来るのかどうか、現在もまだ議論の的で更なる研究が必要です。
肌の「老け易さ」「若々しさ」における指標と測定手段
肌の若さを表すいわゆる「肌年齢」には、保湿力や弾力のほか、見た目の色ツヤやターンオーバー(新陳代謝)の速度、オートファジーの活性など多くの指標が含まれています。
これを測る方法として、例えば水分量や脂質の状態など、皮膚の物性学的な部分に落とし込んでいくやり方があります。また、鏡に映る自分の顔を見て、ほうれい線や皮膚の落ち込み具合を確認するのも身近な方法です。
現在、からだの負担を少なくして皮膚のターンオーバーの速度を測る方法には、超音波を使った方法や、in
vivo共焦点(コンフォーカル)レーザー顕微鏡※という特殊な顕微鏡で、表皮や真皮の厚みなどの皮膚の内部構造を観察する方法などがあります。ただ、皮膚の老化を測る基準は様々で、個人差の幅はおろか個人の時間単位での変化によっても異なるという捉え方もあり、皮膚の状態を画像で診ることの難しさが伺えます。
この画像測定手段は、現状の把握には確かなデータを得ることができます。ただし、それを経時的に観測して多くのデータを集め統計学的に解析する手法や、AIなどによる画像診断技術の洗練などの課題も相まって、とりわけ老化との関連性を示すための試行錯誤が続けられています。
最近では、皮膚に棲み付く常在菌に関する研究も少しずつ報告されるようになってきました。今はまだ、病気の皮膚と健康な皮膚で比較するような研究が主ではあるものの、そこには確かにオートファジーに関わるデータも含まれています。
将来的には、例えば敏感肌になる前後や炎症を起こす前後における微妙な変化を、常在菌から得られる何かしらのデータによって、判断することが可能になるかもしれません。
一方で、皮膚から微量に出ているガスを分析し、そこに含まれる物質の情報から皮膚の新陳代謝に関わる動きを類推することで、皮膚で起こるオートファジー現象の変化との関連性を仮説とする視点での研究も進められています。
皮膚は血管や神経、免疫系がすべて集約している非常に複雑な臓器です。この中で働くオートファジーは、皮膚の恒常性やメカニズムを理解する上で欠かせない存在の一つで、その活性を測る手段の実用化が待ち望まれています。
これが開発されれば、昨今の美容に対する意識の高まりも相まって、幅広い世代でオートファジーに対する認識が向上していくかもしれません。
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