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長寿×オートファジー

人生100年が当たり前になりつつある超高齢社会の日本で、課題になっているのが健康寿命の延伸です。オートファジーは寿命や老化、健康状態の維持に重要な役割を担っていることが近年の研究でわかってきました。長寿とオートファジーの関係について、大阪大学 高等共創研究院 大学院生命機能研究科 准教授・中村修平先生の監修で解説します。

世界が注目 長寿のカギを握るオートファジー

長寿は古来から、人類共通の願いです。しかし、老化や寿命の研究が急速に進んだのは、この30年ぐらいのことです。

きっかけとなったのは1980年代、線虫の寿命に関する研究です。それは、線虫が持つ1つの遺伝子を変えるだけで、2~3週間程の寿命が約2倍になるという報告でした。
これにより、寿命もプログラムされていることが分かり、これまで、“なんとなく老いていく”とされていた寿命や老化に対して、「寿命は制御できるもの」「長寿は研究対象になりえるもの」と、認識が変わっていったのです。

その後、寿命を延ばすメカニズムがいくつも報告されるようになると、次はそれぞれのメカニズムの共通項探しが始まりました。その共通項の一つが、オートファジーです。

アメリカの学術雑誌「Cell」に2023年1月に掲載された「The Hallmarks of Aging(老化の原因は何か)」という総説論文では、老化との因果関係が確認されている12の要素の一つとして「オートファジーの無効化」が挙げられ、マウスやショウジョウバエなどの実験でオートファジーが妨げられると老化が進み、オートファジー活性を上げると寿命が延びることが紹介されています。

最後まで元気で過ごすためにオートファジーを活用して

老化の定義は、「臓器等が加齢により機能低下して、最終的には正常に機能できなくなること」です。これを生物学的に捉えるなら、「異常なものが蓄積している状態」。結局、加齢によってオートファジーの活性が低下すると代謝が落ちて異常なタンパク質などが溜まり、臓器の機能が果たせなくなります。

オートファジーによってすでに蓄積された老化細胞を除去できるかどうかは未だわからないものの、老化細胞の蓄積を抑えることは証明されています。つまり、細胞が老化する過程で低下するオートファジーの活性を上げて老化細胞の蓄積を未然に防ぐことが、長寿につながると考えられます。

大切なのは、身体の不調とともにオートファジーの機能も低下していることに気付き、その時点で活性を高めるような介入を行うことです。そうすれば、蓄積する期間を延長して病気の発症を遅らせることもできます。これがアルツハイマー病なら軽度認知障害(MCI)を発症する前に実践すれば、その前の状態に戻る可能性もゼロではありません。

オートファジーは単に最大寿命を延ばすだけでなく、健康寿命に寄与する可能性が高いメカニズムです。オートファジーを活用して、寿命いっぱいまで健康に生きる「ピンピンコロリ」を目指してみてはいかがでしょうか。