大隅良典教授×デニス・ノーブル教授 特別対談 第1回「生命はリサイクルされている」

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Oxford Longevity Project創設者であるデニス・ノーブル教授と、「オートファジーの仕組みの解明」によりノーベル賞を受賞した大隅良典教授による特別対談。第1回はオートファジーの仕組みを発見する上で重要な役割を果たした「酵母」「液胞」との出会いや、オートファジー研究を通して新たにわかった生命の仕組みについてです。

デニス・ノーブル教授

オックスフォード大学の生理学者、デニス・ノーブルです。私は長寿について研究を行うOxford Longevity Projectの創設者の一人で、今回、長寿研究の立場から大隅先生にインタビューするために来日しました。
大隅先生、本日は本当にありがとうございます。
私は長い間、顕微鏡を覗いてきましたが、大隅先生のノーベル賞受賞講演録を拝読して、先生も同じように長い間、酵母と呼ばれる小さな生物を顕微鏡で観察されてきたこと、そして細胞のゴミがためる液胞に分解されるものが送られるのを発見されたことを知りました。私は講演の中で、あなたが見たとおっしゃっていた光景──液胞に入ってきた構造が激しく動き回りブラウン運動を行う様子──にすっかり魅了されました。
それについて少し教えていただけますか?

大隅良典 教授

わかりました。最初に自己紹介をさせてください。
私は細胞生物学者で、酵母の研究をしています。ほぼ半世紀になります。
私が大学院生だったころ、いえ学部生だったころから、ちょうど確立されつつあったセントラルドグマに魅了され、分子生物学者になりたいと思いました。そして、遺伝情報がDNAからRNA、そしてタンパク質へとどのように送られるのか、DNAからタンパク質に至るまでについて知りたいと思ったのです。
だから最初に行った実験は、大腸菌におけるタンパク質合成の開始メカニズムというテーマでした。当時、分子生物学者はみな、大腸菌を使って研究していました。こうして私にとって、タンパク質合成がキーワードになりました。
その後、アメリカから帰国した私は、酵母細胞を用いて液胞の機能を理解したいと思いました。先程あなたは、液胞は細胞内の単なるゴミ捨て場だと言いました。しかし私は、液胞は細胞内の重要な器官かもしれないと思ったのです。
やがて私は、液胞にはたくさんのアミノ酸が貯められていて、V型ATPaseによるH+の濃度勾配によって輸送が駆動されていることを発見しました。液胞は、それまで研究者が考えていたような不活発なオルガネラではありませんでした。1988年、私は酵母の液胞の分解機能について取り組みたいと思いました。リソソームと同様に液胞の内部は酸性で、様々な種類の加水分解酵素が含まれていたからです。
いつ、何が、どのようにして、細胞質のタンパク質が液胞に入るのか。それが私の最初の疑問でした。そして私は毎日、酵母を顕微鏡で観察しているうちに、ある種の構造が液胞に入り込むことを知りました。

大隅良典 教授

胞子形成は窒素飢餓の条件下で起こるので、その細胞分化には、大量に自身のタンパク質が分解されるだろう。もし運が良ければ、その過程で細胞質を液胞に送り込む構造物を顕微鏡で捉えることができるのではないかと考えました。そして私は、飢餓状態になると沢山の球状の構造が液胞に入り込んで蓄積してゆくことを発見しました。私がそのような構造物を見ることができたのは、液胞タンパク質の欠損変異細胞を使ったからです。その時私は非常に面白い現象に出会ったと思いました。
それ以来私は35年近く、どのようにしてそのような構造が液胞に入り込むのかについて研究してきたことになります。電子顕微鏡で観察した結果、その構造が細胞質タンパク質の一部を取り囲んだ一重の膜構造であることが分かり、その中身が分解されるのではないかと考えました。その膜の動態は、当時すでに知られていたオートファジーとまったく同じだったのです。
そこで私は、それがオートファジーの分子機構を研究するのに適したシステムではないかと考えました。オートファジーはすでに何年も前に発見されていましたが、誰もオートファジーの過程に関与する遺伝子やタンパク質を見出すことができていませんでした。

デニス・ノーブル教授

その通りです。

大隅良典 教授

酵母がその種のテーマに取り組むのに有利であることを知った私たちは、初めてオートファジーに遺伝学的アプローチを行い、オートファジーに不可欠な18のATG遺伝子を単離することに成功しました。

デニス・ノーブル教授

必要なものは18もあるが、進化したものはもっとあるのではないかと?

大隅良典 教授

酵母において飢餓が誘導するオートファジーには必要なATG遺伝子は18個以上あります。そこで、そのような遺伝子を分析し、膜を可視化し、液胞に輸送することに関与している遺伝子を特定しました。

デニス・ノーブル教授

あなたが見つけた遺伝子の1つは、実はプロテインキナーゼをコードするものでしたね。そしてそこでタンパク質が分解される。

大隅良典 教授

そうです、18個の遺伝子は6つの機能グループに分けられます。そのうちの1つであるAtg1タンパク質キナーゼ複合体はオートファジーを誘導するのに非常に重要です。そして、我々は更に2つのユビキチン様結合反応系と、PI3キナーゼ等を見つけました。

デニス・ノーブル教授

確かAtg8だったと思いますが、先生はその他にも脂質と関連する因子をいくつか見つけられました。私は膜の専門家で、膜における物質の出入りを研究しているので、そのうちの1つにタンパク質だけでなく脂質に関連する遺伝子があるのだと知った時はとても興奮しました。それについてもう少し詳しく教えていただけますか?

大隅良典 教授

わかりました。
それは私の人生においてかなり刺激的な時期でした。ATG遺伝子には、ユビキチン様タンパク質をコードしているものが2種類ありました。1つはAtg8であり、Atg8は、タンパク質ではなくホスファチジルエタノールアミンという脂質分子に結合します。そしてこの結合は、酵母のオートファゴソーム形成に必須であるため、非常に重要なのです。

デニス・ノーブル教授

つまり、これは明らかに、液胞に取り込まれたこれらの要素が膜を通過する能力を持つということですね。

大隅良典 教授

はい、その通りです。

デニス・ノーブル教授

あなたのノーベル賞受賞講演の中で、もう1つ興味深かったことがあります。タンパク質のほとんどは生物自身の分解でもたらされたアミノ酸から作られている、と言われましたね。街行く人にもしそう言ったなら、ほとんどの人は「え?私たちが日頃、食べているお肉からではないの?」と反応することでしょう。90%以上がリサイクルされているということですね。

大隅良典 教授

その通りです。

デニス・ノーブル教授

本当に素晴らしいことです。細胞そのものが、生きている細胞が、このようなリサイクルを行っているのですから。

大隅良典 教授

そうですね。私が飢餓に取り組んだ理由は、飢餓がこのリサイクルシステムであるオートファジーを刺激するからです。そして私はあなたが言ったように、生命のリサイクルシステムは素晴らしいものだと確信しています。
私たちは多くのタンパク質や細胞を作っています。赤血球は1秒間に300万個作られているし、ヘモグロビンは1秒間に1千兆個も作られています。しかしそれは、同じ量のタンパク質が体内で分解されていることを意味します。つまり、私たちの生命体は細胞と同じように、分解と生産、そして分解を繰り返しているのです。それこそが地球上の生命の、極めてユニークな特徴の1つです。

デニス・ノーブル教授

免疫システムに体をすっかり掃除させたいなら、飢餓期間を設けるべきだということですね。これは長寿の専門家たちも示唆していることです。

大隅良典 教授

そう思います。もちろん、セントラルドグマはこの分解について何も言っていません。セントラルドグマはDNAからタンパク質への一方向の遺伝情報の流れについてのみだからです。しかし、私たちの生命を維持するためには、分解もまた非常に重要であると考えられます。分解もまた合成と同じくらい重要であると私は考えています。つまり、私たちは常に、合成と分解を繰り返す必要があるということです。

(第2回に続く)

 

プロフィール

デニス・ノーブル 教授 

英国オックスフォード大学名誉教授
心筋電気生理の世界的権威でOxford Longevity Project創設者。

プロフィール

大隅 良典 教授

東京工業大学科学技術創成研究院特任教授・栄誉教授

「オートファジーの仕組みの解明」により2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞。

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