大隅良典教授×デニス・ノーブル教授 特別対談 第3回「オートファジー研究の風景を変えたATG遺伝子同定」

  • URLをコピーしました!

Oxford Longevity Project創設者であるデニス・ノーブル教授と、「オートファジーの仕組みの解明」によりノーベル賞を受賞した大隅良典教授による特別対談。最終回の第3回では酵母から哺乳類や植物細胞にも研究対象を広げ、オートファジーに関連するATG遺伝子を同定してゲノムを完成させたプロセスや、そのことがオートファジー研究に与えた影響について語られます。

デニス・ノーブル教授

再び遺伝子の話に戻りますが、突然変異が集団の中で自然に起こるようにすることで、あなたは新しい遺伝子を発見したのですね。あなたは何かが欠損した酵母変異体をいくつか得て、遺伝子を最初に特定された。そのような理解でだいたい合っていますか?

大隅良典 教授

目的とする突然変異細胞をどのように選択するかは、遺伝学において常に重要です。しかし私たちの場合は、オートファジー欠損変異体の表現型について何も知りませんでした。そこで、オートファジックボディの蓄積ができない変異を光学顕微鏡を用いて単離することにしました。こうして私の研究室の最初の大学院生がこのプロジェクトに参加して間もなく、世界で初めてのオートファジー欠損変異体を1つだけ単離することに成功しました。その変異体は栄養があれば極めて正常ですが、窒素飢餓条件下では生き残ることができなかったのです。そこで私たちはまず、飢餓条件下では生存できない変異細胞をスクリーニングしました。さらに、飢餓条件下ではオートファジックボディを蓄積することができないことを指標にして、さらに沢山のオートファジー不能株を単離することができたのです。

デニス・ノーブル教授

塩基配列の決定も行ったのでしょうね。例えば、そのうちの1つがキナーゼであったように。つまり、先生の研究室は塩基配列の研究室でもあったということですね。

大隅良典 教授

そうです。当時はかなり小さな研究室でしたから、18の遺伝子は多すぎました。私の定年には間に合わないかと思っていましたが、幸運にも酵母のゲノム解読が完了しました。それが、ATG遺伝子の構造を特定するのに大いに役立ったと思います。
その後、私は国立基礎生物学研究所に職を得て、吉森先生が加わりました。国立基礎生物学研究所は研究をするにはとてもいいところで、私の研究室には多くの人が参加してくれました。吉森先生には哺乳類のオートファジーについての研究を始めるように依頼し、研究室に加わった学生やポスドクの中には植物のオートファジーにも興味を持つ人もいました。こうして数年間、私の研究室では、酵母細胞、哺乳類細胞、植物細胞について研究してきたのです。

デニス・ノーブル教授

そして、それらの遺伝子についても。

大隅良典 教授

そうです。私たちが、ATG遺伝子が哺乳類細胞と植物細胞にも非常によく保存されていることを明らかにできたのはそのためです。これはオートファジーの研究において非常に重要な進歩であり、ATG遺伝子の同定はオートファジー研究、すなわちオートファジー研究の風景を完全に変えてしまいました。ATG遺伝子をツールとして使うことで、多くの人がオートファジー研究を始めることができるようになりました。

デニス・ノーブル教授

大隅教授、では、最後に1つ質問させてください。ノーベル賞を受賞することは、科学者にとってほとんど夢のようなことです。
ストックホルムで行われたノーベル賞受賞式で、あなたは実に素晴らしい講演をされました。ご自身の背景や歴史について、またその過程やその後に貢献した人たち全員への謝意について、多大なる思慮をもって伝えられていました。私のような現役の科学者があなたのノーベル賞受賞講演録を読むと涙が出そうになります。
ストックホルムでの講演は素晴らしい経験だったに違いないでしょう。その時どう感じたか、教えてもらえますか?

大隅良典 教授

個人的にはノーベル賞を受賞するとは思っていませんでした。ストックホルムではとても忙しく、スケジュールもタイトで楽しむ余裕はありませんでしたが、多くのノーベル賞受賞者が全く同じことを言っているように、もし将来もう一度ストックホルムを訪れたら、たくさんのものを見て、多くの発見があるかもしれません。

デニス・ノーブル教授

大隅教授、どうもありがとうございました。そしておめでとうございます。
あなたは日本と、あなたの研究領域、そして長寿という問題に関心を持つ私たちのような人々に大きな栄誉をもたらしました。
あなたと今日こうしてお話しできたこと、そしてあなたの発見のエッセンスを多くの方に届けることができることを、本当に光栄に思います。

大隅良典 教授

ありがとうございます。

デニス・ノーブル教授

もう1つだけ、伺ってもよろしいでしょうか。

大隅良典 教授

どうぞ。

デニス・ノーブル教授

酵母は単独でも存在しますが、しばしばコロニーを形成します。それは重要なことでしょうか。
また、私たちの体の器官において、オートファジーが実際に細胞全体のアポトーシスまで至るのかどうか、疑問に思っています。酵母のコロニーはそうなっているのでしょうか、それともわかっていないのでしょうか?

大隅良典 教授

そうですね、正確な答えは誰にもわかりません。
私は酵母のコロニーの表面で行われるオートファジーが内部の細胞を手助けしているかに興味がありますが、これまでのところそのようなことは見つけられていません。

デニス・ノーブル教授

それは興味深いお考えです。多細胞免疫系への一歩になるかもしれない。

大隅良典 教授

そうです。

 

プロフィール

デニス・ノーブル 教授 

英国オックスフォード大学名誉教授
心筋電気生理の世界的権威でOxford Longevity Project創設者。

プロフィール

大隅 良典 教授

東京工業大学科学技術創成研究院特任教授・栄誉教授

「オートファジーの仕組みの解明」により2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞。

SNSでシェア
  • URLをコピーしました!