大隅良典教授×デニス・ノーブル教授 特別対談 第2回「オートファジーに関係する遺伝子はすべてが新発見」

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Oxford Longevity Project創設者であるデニス・ノーブル教授と、「オートファジーの仕組みの解明」によりノーベル賞を受賞した大隅良典教授による特別対談。第2回ではオートファジーに関連する遺伝子について、また、オートファジーの仕組みの発見にまつわるエピソードが語られます。

デニス・ノーブル教授

ところで、オートファジーにはとても多くの遺伝子が関与しています。
Atg1と呼ばれるものを見つけたときは、さぞ興奮したでしょうね。しかしその後、あなたは他にも多くの遺伝子を発見されました。それは予想外でしたか?また、なぜそれほどたくさんの遺伝子が必要なのかについて、説明がついていたら教えていただきたいのですが。

大隅良典 教授

まず、酵母では世界中でさまざまな角度から研究が進められているので、1つの遺伝子が異なる名前で呼ばれることになります。

デニス・ノーブル教授

その通りですね。

大隅良典 教授

ところが驚いたことに、18のATG遺伝子は、ほとんどすべてが新しい遺伝子だったのです。

デニス・ノーブル教授

つまり、「以前は特定されていなかった」ということですね。

大隅良典 教授

そうです。

デニス・ノーブル教授

それは大発見ですね!だからノーベル賞を受賞したのですね。

大隅良典 教授

おそらく当時多くの酵母の研究者は生存に必須な遺伝子にしか興味がなかったのでしょう。ATG遺伝子はもちろん非常に重要な遺伝子ですが、酵母では必須遺伝子ではありません。栄養状態が良ければ、オートファジーがなくても生きていけます。しかしおそらく自然界では、オートファジーの欠損変異体は生存できないと思います。従って、そのような変異体はあまり興味を持たれず、そのため、多くの遺伝子が未同定のままになっていたのでしょう。
オートファジーは、細胞質の一部を取り囲んで隔離するための膜の新規合成を伴うかなりユニークな膜現象です。膜の形成、伸長、融合、密閉そして液胞との融合のためには、たくさんの遺伝子が必要であることは容易に想像できます。研究者個人にとって18のATG遺伝子はかなり多いといえますが、こうした現象には多くの遺伝子が必要であるはずです。哺乳細胞について考えれば、オートファジーに必要な遺伝子はもっと多くなると思います。

デニス・ノーブル教授

必要な遺伝子とは非必須遺伝子でしょうか。

大隅良典 教授

必須遺伝子もあります。酵母が示したのは、18の遺伝子が膜形成のために最も基本的なタンパク質だったことです。なので、調節機構がより複雑になれば、さらに多くの遺伝子が必要になると考えられます。

デニス・ノーブル教授

オートファジーのプロセス自体に多くのプロセスが関与しているのかどうかはさておき、液胞は表面に移動して、最終的に細胞の外に出ますよね?液胞は内容物を排出するだけなのでしょうか。それとも文字通り、乗り物のように外に出ていくのでしょうか。

大隅良典 教授

それは私たちにとっても非常に重要な疑問でした。タンパク質分解酵素が欠損した突然変異体が、なぜオートファジックボディ(オートファゴソームの内膜構造)をそのまま維持しているのかを解明するために、25年以上かかりました。そして最近、私たちはこの問題を生化学的に解明したのです。酵母の場合、これらの膜を破壊するのにリン脂質分解酵素ホスフォリパーゼが不可欠で、その活性化にプロテアーゼが必要でした。
野生型では、この構造はおそらく1分か30秒以内に液胞の中で即座に崩壊します。

デニス・ノーブル教授

ずいぶん早いですね。

大隅良典 教授

だから誰もそのような構造を見つけられなかったのだと思います。膜構造を破壊するのは非常に効果的ですが、もちろん破壊しすぎるのは危険であり、それは慎重に制御されている必要があります。私たちは現在、膜の破壊が行われるには1種類のリパーゼのみで十分される機構を突き止めようと考えています。

デニス・ノーブル教授

分解物が外に出る過程なのですね。お話を伺っていると、そのプロセス形成には何時間もかかるように思われます。液胞の内容物の形成にはかなり長い時間がかかるということでよろしいでしょうか。

大隅良典 教授

いいえ、おそらく30分以下、場合によっては15分とか、そんなところでしょう。

デニス・ノーブル教授

出口に比べると遅いですね。

大隅良典 教授

ええ、確かに。

デニス・ノーブル教授

ところで、冒頭であなたは、液胞にはタンパク質や他の構造体、さらにはリボソームまでもが送り込まれるとおっしゃっていました。つまり、リボソーム全体、ミトコンドリア全体が、液胞の内容物によって効率よく分解されるのですね。これは私のような生理学者にとっても驚きです。

大隅良典 教授

そのために、おそらく少なくとも2種類の分解システムが必要だと考えられます。1つは、分解するものを厳密に選別するプロテアソームシステムです。そこにはユビキチン化というエネルギーを消費するステップが必要なのですが、オートファジーはある意味大規模な分解です。細胞質の一部を取り囲み、一度に何千ものリボソームを破壊したり、巨大なタンパク質複合体やオルガネラさえも1つのオートファゴソームに取り込んでしまうのです。これはオートファジーの大きな特徴といえます。

デニス・ノーブル教授

細胞質のタンパク質を含んだ構造物が液胞に蓄積するのを観察できたのは、ブラウン運動と呼ばれる動きをしていたからですね。文字通り、水分子が衝突しているのですよね?ということは、細胞内では、水分子は構造によって制限されているので、動き回るのを見ることはできない、ということですね。しかし、ほとんど何もない液胞では、水分子は自由に動き回ることができます。
それはあなたにとって重要な手がかりになったのではないでしょうか。なぜなら、液胞に蓄積されるこれらのものを研究することができ、オートファジーのプロセスが実際に進行しているのを目で見ることができたのですから。素晴らしい経験だったでしょうね。

大隅良典 教授

ええ。そうですね。オートファジックボディが液胞の中で激しく動いていたことが大きな発見につながりました。そのため、高級な顕微鏡ではなく、普通の光学顕微鏡で見つけることができたのです。動いていなければ、そのような現象を見ることも、見つけることもできませんでした。

デニス・ノーブル教授

どうしてわかったのですか?

大隅良典 教授

あなたが先ほど「ほとんど何もない液胞」とおっしゃったのがその理由です。タンパク質の濃度が低いため、液胞内は粘性が低いのです。だから構造は液胞に入ると、液胞の中を自由に動き回ることができます。
それにしても、当時の私はラッキーだったと思います。構造が大きすぎると、動きがとても遅くなってしまいますし、小さすぎても動きが速すぎて顕微鏡で見ることはできなかったでしょう。その点、オートファジックボディは、平均サイズが500ナノメートルと、私たちにとってちょうどいい大きさだったのです。

(第3回に続く)

 

プロフィール

デニス・ノーブル 教授 

英国オックスフォード大学名誉教授
心筋電気生理の世界的権威でOxford Longevity Project創設者。

プロフィール

大隅 良典 教授

東京工業大学科学技術創成研究院特任教授・栄誉教授

「オートファジーの仕組みの解明」により2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞。

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